2006年

密会

だれも傷つかないなんてわけもなく
だれも胸 痛ませないなんてわけはない

今宵きりとくりかえしながら
逢瀬をくりかえしながら
あいつの瞳に刺激を受ける
あいつのイミテーションに癒される

何もかも互いにわかっているんだ
ビニール袋を提げて タッチパネルの前に立って
いつだって 終わりにできるということを
今日が今日である理由なんて決していらない

空っぽの事実より確かなもの
イミテーションと 偽りと知りつつ
ゴーストと 幽霊のようにと 透き通っていても
それでも、密会は止められない


(06.02.12)
ブランコ

街灯もなく
手探りで歩く
つかまる 揺れる
同じように 隣の
ブランコも揺れる揺れる

ひとりまたひとりと
闇の中に集まってくる
揺れている姿を見て それで
近くで ただ見ているだけなのだ


(06.03.18)

ゆびきりげんまん

ゆびきりをしたら
ほんきだとおもったわ

もう あとから
だきしめてくれたって
きすしてくれたって
遅すぎるの あなた

ゆびきりをするっていう
ポーズに酔っていただけ
そうね あなた

「今度いっしょにご飯食べよう」
ただそれだけのことばが
ただそれだけのことが
しあわせの蕾をくれる予定になっていた

ゆびきりをしたら
ほんとだとおもったわ
瞬く夢がみたいとおもったわ


(06.04.23)
あたし味

ハッカ オレンジ ストロベリー
ねじりをほどいて
あなたにあげる
きみにあげる
そして これはあたしの分

口の中 広がるファンタジー
夢の中 過去の中 そして今の中
とろける夢は 今だけのもの
だいすきなハッカ オレンジ ストロベリー
さんにんだけの味 さんにんきりの味

みんなで袋の中に手をつっこんで
じぶんの味を手にする 手にとる
ひとつの袋の中に
さんぼんの腕
探して 探す じぶんの味を

ねじりをといて
口の中でころがすと
あれ
あなたはきみに
きみはあたしに

そうして
あたしはあなたになる
じぶんの味をまちがえた?
それから それから
もういっかい 手にとる キャンディ


(06.04.26)

てんとう虫

だいすきなひとは
今週も働くのに忙しい
だいすきなひとは
今日もお付き合いに忙しい
だけど 1時間半の遅刻で現れた


魅力的ではない
無機質にも思える体の模様に
なにやら苛立ってきたんだって
ぼくは 摘み落とされた
地に姿を消した と見せかける

彼女はマットをどかして
ぼくの行方を探した と見せかけて
ほんとうはどうでもよかったんだ
ぼくの姿をもう少しぼんやり
眺めていたかったんだ それだけ

泥んこになったスニーカーに踏み潰されるのはごめんだから
ちょびっとずつ上っていく
もう疲れた
もう ちょこっとはここに立ち止まろう
ぼくの姿を彼女がやっと 確かめた


だいすきなひとは
今月も働くのに忙しい
だいすきなひとは
今年一年を見ていてくれと告げた
そして 滴る階段を手を取り下りた ようで ようで


(06.05.18)
紅い少女

薄汚れたぶらんこに揺れている少女
紅いリボンでふたつに結んでいるお下げ髪
何度も母親と遊びに来た大好きな場所

少女が紅い少女になったのは 一年前
母親の腕に紅い斑点をいっぱい見つけた
その姿に深く衝撃を受ける

少女は母親の痛みを吸い取るため
長い間 母親に重なっていた
そうして いつしか
紅いものばかりを身につけるようになるのだ
誕生日プレゼントの紅いワンピースを
普段着にするようになった

まだこの公園で待っている
いつまで遊んでいるの
早く帰ってきなさいよ
もうすぐ 晩ご飯だからね
母親が呼びに来るのを待っている

大好きな かあさんのきんぴらごぼう
父親がつくっても
他の誰がつくっても お惣菜でもだめ
かあさんの味が恋しくてならない

ね 痛みは和らぎましたか
痛みは少し楽になりましたか
少女の腕や足は紅くなってきましたよ


(06.*.*)

金魚

きれいな真っ赤をしているからだ
群れを見守り 支えているよ
同じような目でみているから
特別なんてない みんなを包み込み泳ぐあの人

わたしのからだは うすよごれたピンク
ごつごつした岩に身を隠しても
このあたりには大きな岩なんてなくて
すぐに最後尾のあの人に見つかる

あんたの場所は決まっているんだよ
好きなように泳ぐんじゃない
はぐれたりしてはいけないよ

一歩下がったところを泳ぎたいわたし
あの人の後ろを泳ぎたい
叶わぬ願いのようで いつかきっと近づいて


(06.*.*)
ないしょ

すなばにしゃがんで 
ゆびきりげんまん 
あたしたちはまたあうよ 
となりまちへこしてってもね 

ぶらんこゆらして 
かぜきって 
あなたのよこがおがすきよ 
わすれないで 

すべりだいすべって 
ゆびきりげんまん 
あたしたちはりょうおもい 

うそついたらいやよ 
きっとまっててよ 
おおきくなったらそばへいくから


(06.*.*)

かえるさん

部屋の真ん中に
大きな水たまり
かおるちゃんはぼくを
かえるさんと呼ぶ

も少し端に寄ってくださいな
かえるさん
かおるちゃんに言われたら
その通りにしてしまうの

ぼくは水のあるところにしか
いられないのです
ぽた ぽた 
ぽたり

天井から滴る
ちょうど水たまりの場所に
ぽ ぽ
ぽちゃん

食べても
食べても
零れるのは
ちょっと切り切りするけれど

ぼくは
かえるのゴミ箱
丸められた原稿用紙が
止まらない

白黒の涙は
ぼくの中にためられていく
かおるちゃんの涙は
ぼくがぜんぶ受け止めるさ


(06.*.*)
月の海

オレンジ色したサングラス
ハルコのお気に入り
それは大切な宝物
5年前の誕生日プレゼント

眩しいネオンライトが苦手のようで
夜でも外せなかったのね
それなのに 満月に食べられた 
ハルコのサングラス 

満月は 
ネオンライトを消した 
ところどころにある 
街灯はそのままにして 

夜でも煌々と照りつけていることに 
慣れている人々は 
慌てふためき 
明かりを求めて彷徨う 

真ん丸い大きな光は 
藍色の空の下 
病みきった胸を 
暖めてくれるかのようで 

満月に近づくハルコは 
だんだん包まれていくのを 
感じる 
飲み込まれる 

四方八方 取り囲まれて 
彼女は海の中に浮かんでいるよう 
うさぎのもちつきが 
すぐ目の前で見えている 

「ねえ きみもこっちへおいで」 
うさぎたちが呼んでいる 
真正面から聞こえてくるさ 
「後ろには だれもいないよ」


(06.*.*)